─松下電器が示した企業責任と精神性─
松下電器より一枚のハガキが届いた。
20年〜14年前のナショナルFF式石油暖房機を探しています──
このナショナルの該当製品を使用していたペンションで、給排器から漏れ出た一酸化炭素により死者・重体者が出たこと。経済産業省から消費生活用製品安全法第82条に基づく緊急命令が下されたこと。この2つを中心に、自社HPは当然として新聞、CM、あらゆるメディアでの呼びかけを開始した。しかしそれでも通達が不十分であるとし、下された決断がこの一枚のハガキ──配達地域指定冊子小包の発送である。
配達地域指定冊子小包とはその地域に登録されている郵便番号全てに配送されるシステムで、日本全国では約6,000万世帯となる。文字通り「日本の全ての家庭に直接呼びかけた」わけだ。だから企業義務・責任を果たしたなどということではないし、問題が全て解決したわけでもない。だが、少なくとも松下はそこまでは行ったという事実は大きい。
まるで今年は草刈の時期であるというように、年頭から無数の社会的・企業的偽装、捏造が発覚し、メディアを賑わせている。マスコミが話題性のために好んでふてぶてしく言い逃れる企業ないし個人を取り上げている傾向もあるだろうが、ヒューザーや木村建設、東横インといった建設偽造の諸問題から立ち昇ってくる腐臭──責任回避と自己憐憫の化合物には、企業責任やら社会精神なんてお題目以前に、企業そのものの存在意義を考えさせるほどの深刻さがある。まったく、鼻を摘まんで誤魔化している場合ではない。
この流れと松下の給排気のトラブルはもちろん同列には扱えない。構造的問題の発覚を受けてのリアクションと、根本的な偽造・捏造による犯罪。まったく性質が異なる問題であるのを承知であえて言いたいのは、『企業性・社会性の評価』などというものは行動と結果があってこそだという再認識である。
85年〜92年製のナショナルFF式石油暖房機の給排器に構造的な問題がある。経済産業省からの指導も入った。口だけで回収する、補填すると言うのは誰でも出来るが、松下はなにより死傷事故の原因の一端となってしまったことへの危機感を最重要視し、同種の事故の発生を防ぐためにもまず消費者に知らせること、問題機器の使用をストップさせることを考えた。結果として日本全国6,000万世帯にハガキを出した。問題の製品の引き取り、点検修理に触れている一文からどうしても抜き出して紹介しておきたい一行がある。
なお、既に点検修理をされたお客様にも、ご要望に応じ、シーズンオフにお引取りをさせていただきます。
松下電器という企業が持つ精神はここにあると見た。構造的問題があると言われたところですぐには手放せない人がいる。ならばまず直し、その上で時期を見て引き取る。スタートが構造的欠陥へのリアクションというマイナス面が際立つものであるゆえ、そう手放しに評価・賞賛するものではないのだが、起きてしまったことから逃げず誤魔化さずに最善を尽くしていると思う。
企業として最善を尽くす──そのことに上限はない。松下のハガキにしたところで全国に出したのだからもう充分だろうということでもない。メディアの前で最善の約束を連呼している捏造者たちは問題外とするにしても、一般の健全な企業にしたところで、『ここまでやれば大丈夫だろう』と思った時が企業としての前進が止まる時だと、そう自覚して動かねばなるまい(榎元敦)。
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