Column - 多事総論 -

 ジラフの世界観をお伝えするコンテンツ「多事総論」
 第1回目はイラストからアートディレクションまで携わるジラフ浅見大樹が
 アップルコンピューターについて語ります。

■スティーブ・ジョブスという奇跡

 アップルコンピューター、正確には前身であるアップルコンピューターカンパニーの創設1976年から早30年。創設メンバーの一人であるスティーブ・ジョブスの描いた未来はどの程度現実のモノとなっただろうか。その歴史や成功を語るだけでも魅力的だが、今日はその起因となるスティーブ・ジョブスの考え方に目を向けたいと思う。

 アップルコンピューターといえば、Apple、Apple2などのヒットから始まっているが、1983年に発表された「Lisa」このマシンなくしてアップルコンピューターは語れないだろう。原型となっているのは「アルト」というマシン。「アルト」は、当時ゼロックス社が「未来のオフィス」を研究するために設立したバロアルト・リサーチセンターで開発されていたが、「マウス」「ビットマップ表示」を取り入れた先進性に人々が感動をおぼえる中、スティーブ・ジョブスは驚きの指摘している。それは「大きさ」と「美しさ」である。彼は未来を感じるコンピューターを作ろうと言い、曲線を持つ一体型のパソコン「Lisa」を発表した。この考え方こそが、後にiMacシリーズやeMac、Macミニなどコンパクトなパソコンの源流である。
 現在、一般的に認識されているパソコンというイメージはこのマシンに収められていたと思う。今で言う「OS(オペレーティングシステム)」の基礎がここに確立されている。これも「ユーザーにもっとわかりやすく、どこにでも置いてもらえるパソコンを作ろう」というスティーブ・ジョブスの考え方が生きている。メニューバー、アイコン、ウインドウとデスクトップの考え方がふんだんに取り入れられている。「ユーザーインターフェイス」の秀逸さ。ウインドウ、アイコンと視覚的、イメージ的にとらえることができることは本当に素晴らしい技術だと思うのだ。たとえば、ハードの種類は問わない、現在使用しているパソコンからマウスを引き抜いてみてほしい。もちろん、マウスで行える操作は全てキーボードでも行える。しかしどうだろう、私はキーボードでは絵は描けない。やはりマウスのありがたみを面白いほどに痛感する。
 0と1しか無い理屈的な世界と、人間の持つ感覚的な世界をつなげた、まさに新時代の発明だと私は思う。「Lisa」は結局、価格面でのハードルが今一つ超えられず失敗に終わる。当時、IBM-PCの高級機が5000ドルで買えた時代に「Lisa」の価格は10000ドルだった。初めてPCに触れた時の、「マウス」で「コマンド」が選べることの「易しさ」への感動。自らのそれを振り返れば10000ドルでも出したかもしれない。しかしそれはすでにマウスに触れ知っているからか。それまで「マウス」という概念が存在しなかった時代に現れた「Lisa」。当時のユーザーが倍額出すとは思えない。それが500ドル1000ドルなら話も変わってくるのだろうが。
誰もが先進的であると認めながら「Lisa」は時代には受け入れなれなかった。

 アップルコンピューターが企業である以上、経営的に成功を収める必要があった。気持ちだけで成功できるほど現実は甘くない事は周知の事実であり、自らの経営者としての未熟さを認めたスティーブ・ジョブスがとった行動はとても潔く、それでいて大胆で私の感性を刺激する。当時ペプシコの社長だったジョン・スカリーをアップルの社長として参加させたのだ。有名な話ではあるが、その時のスティーブ・ジョブスの口説き文句は壮絶である。「あなたは残りの人生を砂糖水を売って過ごすのか?」と。 それ以前にも多々の意志交換があっただろうし、スティーブ・ジョブスがコーラを卑下する意志があったわけでもないだろう。ただ、それほどまでにパーソナルコンピューターの未来にアップルに期待していて、愛していたという事が痛いほど伝わってくる。結果、ジョン・スカリーはアップル社長になった。業界トップの会社の社長の地位(しかも万年3位だったものを自らの功績で1位にした)を蹴っての、未知なるアップルへの参加。なんというドラマチック。

 二人がまず直面したのは、主力商品の不在、苦しくなる一方の経営という現実だった。そんな厳しい流れの中から、スティーブ・ジョブスはMacを生み出すのである。現実的に見れば、さらに良いモノを! という未知数の可能性に予算を取る余裕などなかったはずだ。実際、スティーブ・ジョブスの人集めは非常識に強引だったという。プログラマーの中には、勝手に荷物やマシンを移動されていた者もいるという。役員会を通さず、会長権限を使い「Macプロジェクト」の指揮をとった。ほとんど強制的に人材・予算を集めて来たのだ。それでも私はスティーブ・ジョブスという人に惹かれてやまない。
 スティーブ・ジョブスはMac製作時こんなことも言っている。「Macは電話帳の大きさ以下にする。デスクの上に電話帳より大きいものを誰が置きたいと思うのか?」そうなのだ。こういう考え方はとても大事だと思う。実際今、私はi-Mac G5を使っている。ハードディスク他全てが画面の裏に収められている。デスクの上は非常にすっきりするし、資料などをひろげて作業ができる。e-Macだってコストパフォーマンスを考えればとても優秀なマシンであると思うし、首振りのi-Macは手軽にディスプレイ角度が変えられるのでクビが疲れにくい。さらに、こんなことも言っている。「クイックドロウの基本図形にに何故、角Rが無いのか」角Rは円と四角で構成できるのでいままでのクイックドロウには角丸が無かった。しかし彼は言う。「世間を見てみろ、角Rだらけじゃないか」と。。。私はこの話を聞いた時言葉を失った。なんという感覚だろう。そういう考え方のできる人が製作サイドにいるというのは、なんと心強いことか。
 そのような流れの中で初代「Mac」は発売された。またしても時代の最先端を行きながら、それでも売れ行きは伸びなかった。そしてスティーブ・ジョブスはアップルコンピューターを解雇される。アップルを愛してやまないスティーブ・ジョブスは、アップルによって解雇されるのだ。「Mac」はなぜ売れなかったのか。メニュー・デスクトップ・ウインドウなどの最新機能に加え3.5インチフロッピードライブを搭載していたにも関わらず、クローズドアーキテクチャというものを採用したため拡張性がなかったことが不評だった。さらに標準128のメモリ。これではMacの能力を充分に発揮できる物ではなかった。アップルコンピューターの当時の商品で「アップル2」という物がある。これは拡張性に優れていたことを要因にヒットする。オープンソースの為、他社がソフトなどを開発できたからだ。結局アップルコンピューターを支える事になるのは「アップル2c」という後継機だった。

 しかし、ここからのジョン・スカリー、スティーブ・ジョブスはさらに凄い。デスクトップパブリッシングという新しい世界、写植並の印刷を可能にしたレーザーライタを発表する。今でこそDTPと言われるジャンルだ。そして何よりQuickTimeテクノロジー。ムービーやサウンドが時間軸に沿って再生できるという素晴らしい技術。QuickTimeの誕生は時代の目をバーチャリアリティへと向けた。
 この技術はひいてはアミューズメントにおけるアトラクションにまで見られる。バーチャルという表現による過去に無いエンターテイメント。一つの技術が生み出した新しい感動。その側面、可能性が急速にMacが受け入れ始めた要因なのは間違いない。さらに言えばQuickTimeはフリーソフトとしてWindowsでも使用できるのが素敵だ。
 ジョン・スカリーはマルチメディア時代の扉を開けた。世界は急速にMacを受け入れる。今じゃ当たり前のような感覚でいる人もいるかもしれない。それを初めに成し遂げたというのはやはり私にとっては魅力的である。何故なら、そういう新しいものを創る感性というのがやはり大事なのである。日本企業には、こういう物が売れたからウチも製作しよう的な流れがあるがそういう行動はユーザーから見ればやっつけ仕事にしか見えない。本当に売れる商品を作ろうとしているようには見えない。それはつまり、良い商品には見えない。代表的な事例はメディアプレーヤーでも見られた。iPodが飛ぶように売れると、各メーカーはこぞってメディアプレーヤーに参入。正直気持ちが悪い。SDカード対応だとかCF対応だとか言われても良く分からないと思う。昨今パソコンを使っているのは、ヘビーユーザーだけでは無い。もっと気軽に使っているのだ。それをメーカーの都合に併せて購入しなければならないなんて、なんておかしな話だろう。現在、野球界やら何やらでいわゆる「古い体質」的な言われ方をしているが、アップルコンピューターの様に常に先進的で筋の通った製作というのはそれ程難しい事なのだろう。何度失敗しても、こだわりを持って歩んでいるアップルコンピューターをやはり私はひいきにしてしまう。


 Macintoshと言えば、やはりWindowsに触れない訳にはいかない。Microsoft社・・・ビル・ゲイツの見ている世界もとても研ぎ澄まされたモノなのだ。Macの成功をみて時代がグラフィカルナユーザーインターフェイスを望んでいると悟ったぐらいだから。Windowsは販売の面で巧者だった。IBM-PC互換機の世界はオープンで、技術さえあれば誰でもハードを製造することができた。つまりユーザーに安いパソコンを提供できるのだ。なんだかんだ言って「安い」という事は強い。追い込まれたアップルはMicrosoftと手を組むのだから面白い。ビル・ゲイツはこの共同開発により史上最高のMacOSができると意気込んでいる。凄い人である。そしてMacOSも変わらないといけない、と言っている。アップルが試行錯誤の末採用したのはNEXT社のOSだった。その製品は斬新なデザインで世間が注目していた。胸を打つのは、そのNEXT社のCEOは誰あろうスティーブ・ジョブスなのだ。もう涙なくして語れない。MachをベースとしたOSをアップルに所属しない立場でありながら、開発・製品化していたのである。結果生まれるマシンはG3、iMac、iBookと続く。Macユーザーにはオフィスや快適にアクセスできるWebブラウザが手に入った。大変な恩恵となった。そしてスティーブ・ジョブスはアップルの暫定CEOになりG4、iBookのヒットで正式にCEOに就任するのである。なんというドラマチック。
 MacOSが変わらないといけない、と言っていたがWindowsOSも変わってきていると思う。根本的なユーザーインターフェースを変えない辺りが理解不能であるが。パソコンに対する時代の認識が変わった事もあるが、Macにしろ、Windowsにしろ、ユーザーの切り替えは驚くべき物である。初めから1台のパソコンを複数人数が扱うように設計しているのだから凄い。是非、みんな家族でコミュニケーションして下さい。


 アップルは常に最先端のテクノロジーをユーザーに送り届ける積極的な姿勢がよみがえり、新しい時代に入る。フロッピーの標準装備をやめたり、USBポートを採用したり、SCSIをやめFireWireを標準ポートとしたり、内蔵無線LANなどもいち早く搭載したのもMacだ。USBも標準規格となったのはiMacが採用したからだというんだから笑ってしまう。みんなの当たり前を創ってしまうんだ。確実に、Macは時代をリードしているのだ。そして、この積極的な姿勢を仕掛けているのはスティーブ・ジョブス、その人なのだ。
 そしてなんといってもMacOS Xだろう。これは本当に素晴らしいと思う。安定性とスピード。それでいながら細やかなデザインと使い勝手。スティーブ・ジョブスの提供する「美しさ」がそこには在る。1つの作品であると私は思う。驚きの連続ではあるが、スティーブ・ジョブスがアップルからもらっている報酬は、なんと年1ドルだそうだ。年収1ドルの億万長者は言う。「嵐のようなPC革命の時期は終わった。これからはデジタルライフスタイルの時代に突入するのです。音楽やDVDを楽しむ・・・全てのお楽しみはMacの中に入っている!」彼の情熱はとどまるところを知らず今も燃えたぎっている。そうなんだ。パーソナルコンピューター的側面と、デジタルライフスタイルの側面も見事にカバーしている。仕事で使うか、プライベートで使うか。どこでも使って下さい、とスティーブ・ジョブスの声が聞こえて来そうだ。そして私は「Lisa」開発時のスティーブ・ジョブスの台詞を思い出す。「美しくて未来の感じられる物がいい!子供たちの机の上にもキッチンテーブルにもどこにでも置けて、みんなから愛してもらえる物を作ろうじゃないか!」と。だから私は益々アップルに、スティーブ・ジョブスに惹かれ、次はどんな芸術作品が飛び出すのか胸躍らずにはいられないのです。

 


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このコラムを書いたのは、この人。
浅見 大樹(アサミ ダイジュ)
参考文献
Mac Fan Booklet the APPLE STORY世界を変えた創造者たち/毎日コミュニケーションズ
作業環境
iMac-G5(プロセッサ2G・メモリ1G・ハードディスク160G・モニタ 17inchWide-LCD)


・アートディレクター。
イラスト、DTPアートワーク、パッケージデザイン、WEBマスターとそのアートワークは多岐に渡る。
ポップなキャラクターデザインや温かみのあるイラストへの評価は高く、今もっとも注目されているクリエイターの一人。
アップルコンピューターをこよなく愛す。
現在、メディアを越えた企画創作組織giraffeにて、その才能をいかんなく発揮中。

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